見送るという卒業 ー 春の風の中で

やわらかな風が、季節をひとつ進める。

卒業したのは、

ハルイチだけじゃない。

あの小さな手を引いて歩いた日々も、  

一緒に卒業していく。

転ばないように。  

迷わないように。  

遅れないように。

そんなふうに  

“前を歩かせるための役目”は、  

静かに終わる。

これからは、少し後ろから。  

いや、もっと離れた場所から。

風の向きだけを見て、  

そっと支える側へ。

卒業とは、終わりじゃない。

それまでの時間が、  

身体の奥に沈んでいくことだ。

消えるわけじゃない。  

見えなくなるだけで、  

確かにそこに在り続ける。

笑った日も、  

泣いた日も、  

何気ない帰り道も。

すべてが折り重なって、  

これからの一歩を支えていく。

手を離すということは、  

突き放すことじゃない。

信じるということだ。

自分の足で立ち、  

自分の道を選び、  

自分の速度で進んでいくことを。

ハルイチへ

卒業おめでとう。

これから先、  

迷ってもいい。  

遠回りしてもいい。

そのすべてが、  

いつか自分の中に沈み、  

次の一歩をつくる力になる。

だから大丈夫だ。

もう、自分で歩いていける。

そしてもし風が強い日が来たら、  

ふと思い出してくれればいい。

見えないところで、  

変わらず風よけになっていることを。

## 追章|時間のかたち

入学のときは、  

昨日まで幼稚園だった。

卒業のときは、  

明日から中学生になる。

同じ“子ども”でも、  

その間には大きな時間が流れている。

あの頃は、  

まだ一人では心もとなくて、  

手を引くことが当たり前だった。

それが今では、  

背もぐっと伸びて、  

ふとした場面で頼りになることもある。

いつの間にか、  

立つ位置が少し変わっていた。

だけどその一方で、  

少し寂しさもある。

1年生の頃は、

「ねえねえ、聞いて聞いて〜」

と、  

あふれるように話してくれたのに、

6年生になると、

5つ聞いて、1つ返ってくる。

そんな距離感になる。

それは、離れていくというより、  

内側に世界が広がっているんだろう。

自分の中で考え、  

自分の中で感じ、  

自分の中で答えを探している。

卒業とは、  

できることが増えることだけじゃない。

見えないところで、  

“自分の世界”を持ち始めることでもある。

少し寂しくて、  

でも少し誇らしい。

その両方を抱えながら、  

見送る日。


春のはじまりに吹く風のように、

静かに、でも確かに、

新しい時間が動き出している。

その風は、もう春のものだった。

春一番のような

ハルイチへ。

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