七夕に消えたCR7の夢
ポルトガル対スペイン。
その試合が終わったあと、タカキがぽつりと言った。
「ワールドカップは別モンなんよな。」
僕は、その言葉がずっと残っている。
クラブで世界一になること。
チャンピオンズリーグを獲ること。
ユーロを制すること。
バロンドールを手にすること。
ゴールを積み上げ、記録を塗り替え、時代を支配すること。
もちろん、どれもとんでもない偉業だ。
けれど、ワールドカップだけは、どうやら少し違う。
それは、ただ一番強い選手に与えられる冠ではない。
ただ一番努力した選手に与えられる報酬でもない。
ただ一番長く輝いた選手に約束される勲章でもない。
ワールドカップは、別モンだ。
その「別モン」ぶりを、またしても世界は見せつけられた。
クリスチアーノ・ロナウド。
CR7。
現在進行形で世界中を魅了してきたスーパースター。
メッシと並び、時代そのものを二分してきた存在。
好きか嫌いかでは語り切れない。
好みを超えて、認めざるを得ない。
サッカーという競技の歴史に、巨大な足跡を刻み続けた男。
そのロナウドが、ワールドカップに届かなかった。
ポルトガルはスペインに敗れた。
スコアは、0-1。
たった1点。
されど1点。
その1点が、CR7のワールドカップを終わらせた。
タカキは言った。
「クリロナのワールドカップ終わっちゃったね。」
その響きには、単なる勝敗への反応ではないものがあった。
好きなタイプではなかった。
でも、世界中を魅了してくれた。
本当にお疲れ様でした。
その感じが、とてもタカキらしかった。
応援していたかどうか。
好きだったかどうか。
それだけでは片づけられない存在がいる。
ロナウドは、まさにそういう選手だった。
そして今回、あまりにも出来過ぎていた。
日本時間では、七夕の7月7日。
背番号7。
CR7。
願いの日に、7番の夢が終わる。
なんなんだろうね、これは。
偶然と言えば偶然。
でも、ワールドカップは時々、偶然とは思えない絵を残す。
メッシは前回大会で、ついにワールドカップを手に入れた。
「マラドーナを超えられない」と言われ続けた男が、最後の最後で扉を開けた。
一方で、ロナウドは届かなかった。
メッシは、持っていった男。
ロナウドは、届かなかったことで神話になった男。
そんな言い方をしたくなる。
もちろん、残酷だ。
あれほどの選手が。
あれほどのキャリアを積み上げた男が。
あれほど勝利に飢え続けた男が。
それでも、ワールドカップだけは手に入らない。
クラブなら、積み上げが報われることが多い。
年間を通して、強いチームが強いまま勝ち上がる。
選手層、戦術、資金力、継続性。
長い時間の中で、実力が結果に変わっていく。
でも、ワールドカップは違う。
4年に一度。
短期決戦。
国の巡り合わせ。
世代の重なり。
監督の選択。
怪我。
PK。
VAR。
たった一度のミス。
たった一本のパス。
たった一瞬の沈黙。
その全部が絡み合って、運命みたいな顔をする。
だからこそ、ワールドカップは怖い。
だからこそ、ワールドカップは美しい。
この大会は、偉大な者に冠を与える場所ではない。
偉大な者ですら届かない場所があると、世界に見せる場所なのかもしれない。
そして、その現実を証明してしまったのがCR7だった。
なんとも、皮肉だ。
なんとも、絵になる。
スペインは、そのスーパースターを倒した。
ヤマル。
まだ18歳。もうすぐ19歳。
CR7が長い時間をかけて築き上げてきた時代の、その出口に立っていたのが、次の時代の少年だった。
これもまた、出来過ぎている。
終わる者。
始まる者。
ワールドカップは、時代の引き継ぎ式まで一試合の中に入れてくる。
ただ、スペインがこのまま頂点まで行けるかと聞かれると、まだわからない。
ポルトガルを倒した。
でも、圧倒して粉砕したわけではない。
ギリギリのところで、最後に刺した。
次はベルギー。
そしてその先には、怪物がいる。
エンバペがいる。
フランスがいる。
今日のスペインは美しかった。
でも、怪物を仕留めるには、まだ少し刃が細いようにも見えた。
ワールドカップは、一寸先は闇。
勝ったはずのチームが、次であっさり沈むこともある。
主役になるはずの選手が、何もできずに去ることもある。
誰も予想していなかった国が、突然、物語の中心に出てくることもある。
だから目が離せない。
反対側の山では、メッシとハメスの勝負が見たい。
けれど、それもまだ願いでしかない。
七夕の願いは、叶うとは限らない。
ロナウドがそう教えてしまったばかりだ。
RRとCR。
Reborn Runner と Cristiano Ronaldo。
走り続ける者と、届かなかった7番。
まさか、ワールドカップログ第7話で、CR7のワールドカップが終わるなんて。
出来過ぎている。
出来過ぎているけれど、だからこそ書き残したくなる。
ワールドカップは別モンだ。
その別モン度合いを、世界最高級の男が、自らの届かなさで証明してしまった。
七夕の7月7日。
CR7の日。
願いが叶った日ではなかった。
けれど、願いが叶わなかったからこそ、歴史に残る日になった。
クリスチアーノ・ロナウド。
貴方様のワールドカップは、ここで終わった。
でも、貴方様が世界中に見せてくれたものは、終わらない。
ワールドカップは、偉大な者に与えられる冠ではない。
偉大な者ですら届かない場所にあるから、世界中が夢を見る。
そのことを、CR7が教えてくれた。
そして僕らは、また次の試合を見る。
一寸先は闇。
だからこそ、光が差した瞬間を見逃せない。

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