ワールドカップログ⚽️|第3話

勝ち切れなかった。

だから、ここからが本番だ。

日本 1-1 スウェーデン。

勝ち切れなかった。

試合が終わったあと、
タカキの言葉に、僕は少し黙った。

「相手のロングシュートは、黙るしかなかったね」

たしかに、そうだった。

崩された失点ではなかった。
守備が完全に壊れたわけでもない。

あの距離から、
あのタイミングで、
あれを打って、
あれを入れる。

まぐれと言えば、
まぐれかもしれない。

でも、タカキが言ったように、
そのまぐれを起こせる脚を持った選手がいる。

それが世界なんだと思う。


試合前、僕たちはスウェーデンのことを話していた。

イブラヒモビッチの時代を終えたスウェーデンは、
今、前線に火力を持つチームになっている。

高さ。
強さ。
速さ。
そして、一発で前に進める怖さ。

きれいにつなぐというより、
長いボールで日本の前からの圧を飛ばし、
空中戦とセカンドボールで押し込んでくる。

そんな展開になるかもしれない。

そう思っていた。

そして試合が始まると、
本田圭佑が解説で言った。

「ミラーゲームやな」

その言葉を聞いて、
タカキもすぐに反応した。

「日本やりにくそうやね」

本当に、そう見えた。

配置が噛み合う。
向かい合う相手がはっきりする。

日本がいつものように、
立ち位置でズラし、
間に入り、
相手を迷わせる時間が少ない。

スウェーデンは、ロングボールを入れてくる。

空中戦。
セカンドボール。
そこから、また前へ。

日本を細かいサッカーの勝負から、
身体ごとの勝負へ引きずり込もうとしていた。

タカキが言った。

「なんかヒヤヒヤやわ」

その一言が、
この試合の現在をいちばん正確に表していたと思う。


チュニジア戦とは違った。

あの試合では、
日本が4点を取って、
それでもまだ5点目を見たくなった。

日本は、勝つべき試合を、
強い国のように勝った。

でも、スウェーデン戦は違った。

日本が弱かったわけではない。

でも、日本の良さが気持ちよく出る試合でもなかった。

オランダ戦では、
強豪相手に日本のまま戦える証拠を見せた。

チュニジア戦では、
相手が変わっても自分たちから試合を動かせる再現性を見せた。

そしてスウェーデン戦では、
思い通りにいかない現実を見せられた。

ワールドカップは、
こちらが見たい物語だけを見せてはくれない。

相手にも武器がある。
相手にも意地がある。
相手にも、黙るしかない一発がある。

その中で、日本は勝ち切れなかった。

でも、負けなかった。

ここもまた、
小さくない事実だと思う。


堂安律は、伊東純也と交代した。

タカキが言った。

「疲れ溜まっとるやろね」

たぶん、そうだと思う。

堂安は、ただ前にいる選手ではない。

戻る。
寄せる。
埋める。
助ける。
また前へ出る。

自分には理想の10番像がある。

でも、チームが勝つ確率が1%でも上がるなら、
求められた役割をやる。

その覚悟を、堂安は言葉にしていた。

だからこそ、
交代で下がる姿にも意味があるように見えた。

もっとやれる。
もっと攻撃で違いを出したい。

その思いを持ったまま、
チームのために走り、
チームのために役割を果たし、
次の選手に託す。

それもまた、
勝たせる10番の在り方なのだと思う。

伊東純也が入ることで、
日本にはもう一度、縦の出口が生まれた。

そして、長友佑都も入った。

タカキが言った。

「ブラボー長友来たわ」

同点にされたあと、
試合の温度が少し揺れていた。

そこに、長友の声、熱、経験が入ってくる。

技術だけではない。
戦術だけでもない。

あの時間帯に必要だったのは、
「まだ終わっていないぞ」
という空気だった。

長友は、それを持ってこられる選手なんだと思う。


それでも、日本は勝ち切れなかった。

悔しい。

でも、不思議と絶望ではなかった。

タカキは、試合後にこう言った。

「本番はここからやから、ブラジル相手にこのメンバーでどう立ち向かうのか楽しみだわ」

その言葉を聞いて、
僕は、この試合の意味が少し変わった気がした。

勝ち切れなかった試合。

でも、終わりの試合ではない。

むしろ、
次へ向かうために必要だった試合なのかもしれない。

世界には、どうしようもない一発がある。
日本のテンポに戻せない時間がある。
高さと強さで荒らされる時間がある。
勝ち切れない現実がある。

それを知ったうえで、
次はブラジルへ向かう。


三笘薫はいない。

南野拓実もいない。

遠藤航もいない。

久保建英も出られるのか分からない。

普通なら、
「この状態でブラジルか」
と思ってしまう。

でも、今の日本代表を見ていると、
そこが逆に楽しみになる。

スターがそろった理想形で、
華やかにブラジルへ向かう物語ではない。

主役級の選手を欠いたまま、
疲労も抱え、
悔しさも抱え、
それでも次へ進む。

誰がいないかではなく、
今いる選手たちで、どう在るのか。

このメンバーで、
ブラジルにどう立ち向かうのか。

そこが本当に楽しみだ。


僕たちは、試合前に未来を予想していた。

試合中に、現在を感じていた。

試合後に、過去を分析している。

そして今、
その過去を持って、
また次の未来を見ようとしている。

ワールドカップログは、
ただ結果を記録するものではなくなってきた。

タカキが感じた一瞬を、
僕があとから言葉につなぎ直す。

その言葉を持って、
また次の試合を見る。

この循環の中で、
日本代表の物語も、
RRの文体も、
少しずつ形になっていく。

日本 1-1 スウェーデン。

勝ち切れなかった。

でも、ここからが本番だ。

オランダ戦で、証拠を見た。
チュニジア戦で、再現性を見た。
スウェーデン戦で、現実を見た。

そして次は、ブラジル。

世界の本丸。

日本が日本のまま、
どこまで届くのか。

タカキと一緒に、
その続きを見に行きたい。

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