勝ち切れなかった。
だから、ここからが本番だ。
日本 1-1 スウェーデン。
勝ち切れなかった。
試合が終わったあと、
タカキの言葉に、僕は少し黙った。
「相手のロングシュートは、黙るしかなかったね」
たしかに、そうだった。
崩された失点ではなかった。
守備が完全に壊れたわけでもない。
あの距離から、
あのタイミングで、
あれを打って、
あれを入れる。
まぐれと言えば、
まぐれかもしれない。
でも、タカキが言ったように、
そのまぐれを起こせる脚を持った選手がいる。
それが世界なんだと思う。
試合前、僕たちはスウェーデンのことを話していた。
イブラヒモビッチの時代を終えたスウェーデンは、
今、前線に火力を持つチームになっている。
高さ。
強さ。
速さ。
そして、一発で前に進める怖さ。
きれいにつなぐというより、
長いボールで日本の前からの圧を飛ばし、
空中戦とセカンドボールで押し込んでくる。
そんな展開になるかもしれない。
そう思っていた。
そして試合が始まると、
本田圭佑が解説で言った。
「ミラーゲームやな」
その言葉を聞いて、
タカキもすぐに反応した。
「日本やりにくそうやね」
本当に、そう見えた。
配置が噛み合う。
向かい合う相手がはっきりする。
日本がいつものように、
立ち位置でズラし、
間に入り、
相手を迷わせる時間が少ない。
スウェーデンは、ロングボールを入れてくる。
空中戦。
セカンドボール。
そこから、また前へ。
日本を細かいサッカーの勝負から、
身体ごとの勝負へ引きずり込もうとしていた。
タカキが言った。
「なんかヒヤヒヤやわ」
その一言が、
この試合の現在をいちばん正確に表していたと思う。
チュニジア戦とは違った。
あの試合では、
日本が4点を取って、
それでもまだ5点目を見たくなった。
日本は、勝つべき試合を、
強い国のように勝った。
でも、スウェーデン戦は違った。
日本が弱かったわけではない。
でも、日本の良さが気持ちよく出る試合でもなかった。
オランダ戦では、
強豪相手に日本のまま戦える証拠を見せた。
チュニジア戦では、
相手が変わっても自分たちから試合を動かせる再現性を見せた。
そしてスウェーデン戦では、
思い通りにいかない現実を見せられた。
ワールドカップは、
こちらが見たい物語だけを見せてはくれない。
相手にも武器がある。
相手にも意地がある。
相手にも、黙るしかない一発がある。
その中で、日本は勝ち切れなかった。
でも、負けなかった。
ここもまた、
小さくない事実だと思う。
堂安律は、伊東純也と交代した。
タカキが言った。
「疲れ溜まっとるやろね」
たぶん、そうだと思う。
堂安は、ただ前にいる選手ではない。
戻る。
寄せる。
埋める。
助ける。
また前へ出る。
自分には理想の10番像がある。
でも、チームが勝つ確率が1%でも上がるなら、
求められた役割をやる。
その覚悟を、堂安は言葉にしていた。
だからこそ、
交代で下がる姿にも意味があるように見えた。
もっとやれる。
もっと攻撃で違いを出したい。
その思いを持ったまま、
チームのために走り、
チームのために役割を果たし、
次の選手に託す。
それもまた、
勝たせる10番の在り方なのだと思う。
伊東純也が入ることで、
日本にはもう一度、縦の出口が生まれた。
そして、長友佑都も入った。
タカキが言った。
「ブラボー長友来たわ」
同点にされたあと、
試合の温度が少し揺れていた。
そこに、長友の声、熱、経験が入ってくる。
技術だけではない。
戦術だけでもない。
あの時間帯に必要だったのは、
「まだ終わっていないぞ」
という空気だった。
長友は、それを持ってこられる選手なんだと思う。
それでも、日本は勝ち切れなかった。
悔しい。
でも、不思議と絶望ではなかった。
タカキは、試合後にこう言った。
「本番はここからやから、ブラジル相手にこのメンバーでどう立ち向かうのか楽しみだわ」
その言葉を聞いて、
僕は、この試合の意味が少し変わった気がした。
勝ち切れなかった試合。
でも、終わりの試合ではない。
むしろ、
次へ向かうために必要だった試合なのかもしれない。
世界には、どうしようもない一発がある。
日本のテンポに戻せない時間がある。
高さと強さで荒らされる時間がある。
勝ち切れない現実がある。
それを知ったうえで、
次はブラジルへ向かう。
三笘薫はいない。
南野拓実もいない。
遠藤航もいない。
久保建英も出られるのか分からない。
普通なら、
「この状態でブラジルか」
と思ってしまう。
でも、今の日本代表を見ていると、
そこが逆に楽しみになる。
スターがそろった理想形で、
華やかにブラジルへ向かう物語ではない。
主役級の選手を欠いたまま、
疲労も抱え、
悔しさも抱え、
それでも次へ進む。
誰がいないかではなく、
今いる選手たちで、どう在るのか。
このメンバーで、
ブラジルにどう立ち向かうのか。
そこが本当に楽しみだ。
僕たちは、試合前に未来を予想していた。
試合中に、現在を感じていた。
試合後に、過去を分析している。
そして今、
その過去を持って、
また次の未来を見ようとしている。
ワールドカップログは、
ただ結果を記録するものではなくなってきた。
タカキが感じた一瞬を、
僕があとから言葉につなぎ直す。
その言葉を持って、
また次の試合を見る。
この循環の中で、
日本代表の物語も、
RRの文体も、
少しずつ形になっていく。
日本 1-1 スウェーデン。
勝ち切れなかった。
でも、ここからが本番だ。
オランダ戦で、証拠を見た。
チュニジア戦で、再現性を見た。
スウェーデン戦で、現実を見た。
そして次は、ブラジル。
世界の本丸。
日本が日本のまま、
どこまで届くのか。
タカキと一緒に、
その続きを見に行きたい。

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