一滴💧|七十二候|葭始生(あしはじめてしょうず)

水の縁に、

細い緑が立つ。

風に触れれば、
すぐにでも折れてしまいそうなほどの、
頼りなさ。

それでも、
その一本は、
確かにそこにある。

葭(あし)は、
弱い。

強く張るわけでもなく、
目立つわけでもなく、

ただ、
水と土のあいだに立ち、

風に揺れながら、
季節を受けている。

それでも、

そこから始まる。

昔、

パスカルは、

「人間は考える葦である」

と語った。

人は、
自然の中ではあまりにも小さく、
あまりにも弱い存在だ。

風に揺れる葭のように、
簡単に倒れてしまう。

それでも人は、

自分がそこにあることを知り、
感じ、
考えることができる。

その一点において、
自然の中にありながら、
自然を見つめる存在でもある。

水の縁に立つ、
この細い芽もまた、

ただの草ではなく、

春のはじまりを、
静かに受け取っている。

七十二候は、

大きな出来事ではなく、

こうした、
見逃してしまいそうな瞬間に、
目を向けていた人たちの感覚を、

言葉として残している。

どれだけ強くあるかではなく、

どれだけ繊細に、
世界の変化を受け取れるか。

そこに、

もうひとつの豊かさがあることを、

先人たちは知っていたのかもしれない。

人間もまた、

考える葦であり、

そして、

感じる葦である。

水の縁に立つその一本のように、

揺れながら、

それでも、
季節の中に立っている。

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