一滴💧|蛙始鳴(かわずはじめてなく)

田んぼに、

水が入る。

それまで静かだった場所が、

その夜から、
急に鳴き始める。

どこにいたんだ。

毎年、
そう思う。

けれど、

いなかったわけじゃない。

土の中や、
草の陰や、
水路の隅で、

ずっと、
季節を待っていた。

水が張られ、

空気が湿り、

夜の温度が変わる。

その瞬間、

命は、
声を持ちはじめる。

春までは、

花が咲き、
芽が出て、
光が変わる、

目で感じる季節だった。

けれど、

蛙が鳴き始めると、

季節は、
耳にも届きはじめる。

昔の人もきっと、

あの声を聞きながら、

「ああ、夏が来るな」

と感じていたのだと思う。

見えなかったものが、

突然、
世界に現れるのではなく、

ただ、

声になっただけなのかもしれない。

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